読経の作法

 2日間の坐禅合宿において、私たちは4回の坐禅のほか、お寺の作法・しきたりの一端をご住職からうかがうことができました。坐禅や写経のほか、読経やお寺修行について印象に残ったことをここに整理しておきたいと思います。

梵鐘で修行を開始

 鐘楼の外に向かって合掌低頭します。
 次に、紐を引っ張ってユックリと9回鐘を撞きます。鐘を撞く前には1音ごとに合掌をします。次声を撞くのは鐘の余韻がおさまりかける20秒を目処に撞くのが良いと思います。
 1声から7声までは中音で撞き、8声は小さめに撞きます。最後の9声目は大きく撞いて終了です。

お経の読み方

 東祥寺さんでは、次のような読経の心得があります。

 
東祥寺 読経の心得


 経典には日常の救いと導きがあります。
 経文を心でなぞり、あるいは唱えるならば、経文以外のことを考えてはなりません。
 心ない願いを念じてはなりません。身口意がバラバラになってしまうからです。 お唱えするときは、まず願いをしっかりと念じあとは無心で経文の一文字一文字へ溶け込んでください。
 普段、私たちは、身体の動きと、意志の働きとがぴったりと一つになっていないものです。それは煩悩と迷いの仕業です。
 六波羅密の修行をする事で魂は浄化され徳が高くなります。これが悪行を作らず善行を積む方法です。
 姿勢を正し、口に経文を唱え、心が経典へ没入していれば、身・口・意は一つになりみ仏の世界へ入られます。
 正しく唱える読経によって業を清め、開運し、安心を得ましょう。      合掌

 次に、鈴の鳴らし方と、読誦の仕方に分けて説明します。

鈴の鳴らし方

 鈴には導師が読経開始や礼拝を促す引率の鈴(引磬)と読経の際に鳴らす鈴(磬子)の2種類があります。

引磬の鈴

 鈴のマークは◎は大きく鳴らす、○は小さく鳴らす、△は鈴をカチッと押さえる音止めを指します。
 礼拝の準備の鈴は引磬で鳴らします。
 『◎◎◎◎○○○・・・・』と連打し、礼拝の合図「◎」で一拝、「◎」で第二拝、「○◎」で第三拝、というようにします。

読経の鈴

 読経の際の鈴は磬子で鳴らします。
 普通、「◎◎◎△」はお経の題名を唱える、「◎」はお経の本文読誦で鳴らします。始まって少ししたら、「◎ー◎」。終わりの直前に「○ー○」、終わりが「△」。
 回向文を唱える際には行頭に「◎」、すべてが終わったら合図として「○◎」と鳴らし、合掌して終わります。

お経の本文読誦

 お経の題名は、最後をやや伸ばします。終わるのは磬子が鳴るタイミングです。
 漢文のお経は、漢字一文字を一拍で読みます。和文はなるべく棒読みにします。
 拍が乱れないように単調に読むのが一番読みやすいでしょう。リズムは自然につく程度ならかまいません。
 息継ぎは息がすっかりなくなる際に吸い込むのがいいでしょう。

読経

 本堂で正座をして梵鐘の撞き終わるのを待ちます。

 まず、導師の合図により、ご本尊様に対し、両の手を合わせて3度合掌し、礼をします。(このときに引磬(いんきん)を鳴らします)。

 般若心経の読経が始まります。

           

 般若心経読受の際には、磬子(けいす)や木魚(もくぎょ)を決められた時に適宜鳴らします。
 以下の般若心経全文に記入の◎マークの時点で磬子(大)を鳴らします。4打目の磬子は「蜜多心経」のあと、導師が音程を下げて再度上げた時点で鳴らすように決められています。
 ○マークは磬子(小)を鳴らします。▲は磬子を止める(ガツッ)音をつけます。□は木魚を鳴らします。観自在菩薩から般若心経までは、1文字毎に木魚を鳴らします。


般若心経の全文
◎◎◎▲摩訶般若波羅蜜多心経
観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空。度一切苦厄。舎利子。色不異空。空不異色。色即是空。空即是色。受想行識。亦復如是。舎利子。是諸法空相。不生不滅。不垢不浄。不増不減。是故空中。無色無受想行識。無眼耳鼻舌身意。無色声香味触法。無眼界乃至無意識界。無無明。亦無無明尽。乃至無老死。亦無老死尽。無苦集滅道。無智亦無得。以無所得故。菩提薩埵。依般若波羅蜜多故。心無罣礙。無罣礙故。無有恐怖。遠離一切顛倒夢想。究竟涅槃。三世諸仏。依般若波羅蜜多故。得阿耨多羅三藐三菩提。故知般若波羅蜜多。是大神呪。是大明呪。是無上呪。是無等等呪。能除一切苦。真実不虚。故説般若波羅蜜多呪。即説呪曰。羯諦羯諦。波羅羯諦。波羅僧羯諦。菩提薩婆訶。般若心経。



 次に、導師より『本尊上供』回向をしていただきました。本尊上供とは、ご本尊に仏餉を供えて供養することを指します。なお、ご本尊は釈迦牟尼仏と道元禅師・瑩山禅師という「一仏両祖」を指し示します。
 また、回向文の最後には、略三宝四弘誓願文を必ず唱えます。


本尊上供の全文
上来、摩訶般若波羅蜜多心経を諷誦する功徳は、大恩教主本師釈迦牟尼仏、高祖承陽大師・太祖常済大師に供養し奉り、無上仏果菩提を荘厳す。伏して願わくは、四恩総て報じ、三有斉しく資け法界の有情と同じく種智を円かにせんことを。
冀う所は、(本日参詣の善男善女に各々)家門繁栄、子孫長久、災障消除、諸縁吉祥ならんことを。

略三宝の全文
 十方三世一切仏 諸尊菩薩摩訶薩 摩訶般若波羅蜜

四弘誓願文の全文
 衆生無辺誓願度 煩悩無尽誓願断 法門無量誓願学 仏道無上誓願成 



 読経が終了すると、ご本尊様に対し、両の手を合わせて3度合掌し、3礼をします。(このときに引磬(いんきん)を鳴らします)。

木魚とそのたたき方

 木魚とは木で作られた魚を擬態しています。魚は夜でも決して目を閉じないそうです。修行僧も眼を閉じずに励むように、との意味が篭められているそうです。
 般若心経を例に木魚の打ち方を実習しました。倍(バイ)で木魚を叩く時は単に右手で頭頂部を叩くのではなく、左手も添えて押すように叩くと良い音がします。「倍」は当て字で、ほんとうは“イ”の部分が“木”です 。「倍」とは、木魚を叩く時の撞木を指します。
 般若心経の最初の「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見」までのたたき方はユックリ目で、「五蘊皆空」からあとはペースを速めます。最後の「菩提薩婆訶 般若心経」では、ユックリ目のたたき方でシメるのが良いとされます。

磬子

 禅林特有の法具で、梵音具の一つです。形状は鉢形、これを台の褥に載せ、読経の前後、中間に枹(皮または布で先端を包んだ棒)をもって打ち鳴らす楽器。大・中・小があり、大磬・中磬・小磬と呼ぶが、小さいのを鈴ともいいます。磬子は「けいす」と読みます。

引磬とそのたたき方

 携帯型の鐘です。修行道場では、朝晩の読経の時の本堂への出頭・退堂や、食堂(じきどう)への行き帰りに、引率者が鳴らします。引率者が使う鐘と理解すれば良いかと思います。
 導師がご本尊に礼をしたとき、1拝目、2拝目はチンと1回、3拝目はチンと鳴らした後、導師の頭が完全に下がったときにもう一度鳴らします。

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