般若心経を詠む
般若心経は六百巻の大般若経のエッセンスをたった266字に凝縮した密度の濃い功徳のあるお経です。般若心経は坐禅や写経の前に必ず唱えます。写経では、般若心経を丁寧に心を篭めて書写します。
般若心経
大いなる叡智によって安らぎの岸にいたる必要の教え
【安らぎへの願いを限りなく】
(あるとき、お釈迦様は深く坐禅に入っておられました。その席でまた、観音さまも深い坐禅の安らぎに入っておられました。)心を観察することが自由自在で物事にとらわれない観音さまは、安らぎにいたる清らかな智慧を深く静かに働かせているとき、命と心の<縁起>は、五蘊の調和であって、固定性はないし、こだわりようがないと見きわめて、あらゆる苦しみの人々を救われました。
【大いなる智慧の内容ー五蘊の空】
舎利仏よ、(この世において)肉体《色》は、<縁起>であって、固定性はなく、<縁起>で固定性がないという真理は肉体や物事となって現れています。つまり、肉体という現象がそのまま<縁起>で固定性がないという真理をを生きているのです。感受能力《受》も、記憶の能力《想》も、欲求と判断の能力《行》も、自我と自己主張《識》も、みな空で固定性はなく、その真理が意識活動となって現れています。(だからそこを大切に生きるのです)【大いなる智慧の内容ー空という真理の特性】
舎利仏よ、もろもろの存在として現れている清らかな真理は<縁起>であり、こだわりようがないという特質を持っています。それは、現象には生滅があるが、空という真理は生滅を超えて現象を生起せしめています。現象には垢浄があるが、空という真理は垢浄を超えて現象を生起せしめています。現象には増減があるが、空という真理は増減を超えて現象を生起せしめています。
【大いなる智慧の内容ー意識と感覚と環境の空】
それゆえ、<縁起>にしてこだわりようがない真理のなかでは、存在や肉体《色》も固定性はなく、感受能力《受》も、記憶の能力《想》も、欲求と判断の能力《行》も、自我と自己主張《識》も固定性はなく、@眼の能力もA耳の能力もB鼻の能力もC舌の能力もD身体能力もE意識能力も(六根という)固定性はなく、@色境もA声境もB香境もC味境もD触境もE法境(意味世界)も(六境という)固定性はなく、眼によってつくられた世界(@眼界)も、また(A耳界もB鼻界もC舌界もD身界も)、E意識界も(《六識》という)固定性はないのです。【自我の仕組みとその空】
(お釈迦様は)真実に対する根源的な愚かさ(@無明)があるというが、それも固定性はなく、こだわりようがないものなのです。(固定性がない以上、生きている限り、その愚かさがなくなることもないから、そこを大切に修行しつづけるのです。無明によって染まり習慣づけられた心の癖があり(A行)、無明と行の色眼鏡で働く自意識があり(B識)、環境や肉体からの束縛があり(C色)、眼・耳・鼻・舌・身・意という<六根>の感覚が入る窓があり(D六入)、無明・行・識によって、色(外界)と六入が接触する縁が働き(E触)、以上の総合によって、自我中心に感受する働きがあり(F受)、それによって、愛欲が生起し(G愛)、それによって、こだわりが生起し(H取)、それによって、自我の自覚が成り立ち(I有)、それによって、迷いの生きがいが成り立ちます(J生)。それらはいずれも固定性がなく、縁がむやみに働いて、生きている限り)それ相応の老いや死(K老死)の苦労もあるが、その苦労も固定性はなく、こだわりようがないのです。固定性がない以上、老いや死の生きる苦労もなくなることはないから、よき生き方をめざして、そこを大切に<空>で生きるのです。(@からKを<十二因縁>という)【苦からの開放とその空】
人生は思うようにはならないが、それも固定性はなく、こだわりようがないのです(@苦諦)。苦しみの原因は煩悩ですが、それも固定性はなく、こだわりようがないのです(A集諦)。煩悩の炎が消滅した涅槃の静けさこそ人を救いますが、それも固定性はなく、こだわれません(B滅諦)。涅槃の静かな心にいたる八正道を修行すべきですが、それもこだわったらいけません(C道諦)。
(@からCを<四諦>という)
【とらわれなき心の完成】
さとりを求める人々(菩提薩埵) は、とらわれなき智慧(般若波羅蜜多)をよりどころにするから、心に自我意識へのこだわりがありません。心に束縛がないから恐怖心と不安がありません。すべての真理に対するさまざまな空想観念を離れて、静かなさとりを完成しているのです。過去・現在・未来のすべての仏方も、とらわれなき智慧をよりどころにしているから、このうえなきさとりの世界(阿耨多羅三藐三菩提)にお入りになりました。
【とらわれなき智慧を心にとどめたたえよう】
それゆえに知るべきです。とらわれなき智慧は、それは偉大な神通力を持った祈りの言葉です。それは大いなる智慧の真言葉です。それはこのうえなき真実の言葉です。それは他の何者にも比べられない願いの言葉です。必ずすべての苦悩・迷いをとりのぞく、真実であり偽りのない世界です。
【真実の言葉を念じ続けよう】
ゆえに、とらわれなき智慧にいtる祈りの言葉を示しましょう。その祈りの言葉はつぎのようにいわれます。
「行きましょう。行きましょう。とらわれなき世界へ。素晴らしいところへ、ひとり残らず。さとりよ、万歳」とらわれなき智慧の心の経を終わる
覚えておきたいキーワード
五蘊
色・受・想・行・識の5つの条件を指す。
@色
肉体・物質
A受
感受能力
B想
記憶と記憶に照合して物事を判定する能力
C行
損か得か、危険か安全か、好きか嫌いかなどの価値を判断する能力。
D識
自分の意見、どう行動するかなどの自意識の能力。
これらの調和によって、人間の存在(命と心)が生起している。「私」という思いは、これら五つの条件の調和(縁起仮和合)であって、実体や固定性はないということがわかったら、自我や物事にこだわらないでいられるという智慧を「<空>の智慧」という。
八苦
基本的には四苦八苦といわれる。
@生苦
生まれ、生きていることは自分の意思に逆らうことから生じる苦しみ。
A病苦
病むことは多くの苦しみを招く。
B老苦
老いは多くの苦しみを招く。
C死苦
死は自分の意思に逆らい、多くの苦しみを招く。
以上@〜Cを四苦という。
D愛別離苦
愛する人と別れねばならない苦しみ。
E怨憎会苦
嫌な人とも一緒にいなければならない苦しみ。
F求不得苦
欲しいものが得られない、思うようにならない苦しみ。
G五蘊盛苦
心と肉体が盛んなために心が落ち着かずさまざまな苦を招く。
以上@〜Gを八苦という。
八正道
<空>の智慧を得る八つの正しい道のこと。
@正見
こだわりなき物のみかた。
A正思
こだわりなき心の働き。
B正語
こだわりなき言葉の生活。
C正業
こだわりなき体の行い。
D正命
正しい生活の仕方。
E正精進
正しくこだわりなき努力の持続。
F正念
正しくこだわりなき世界を忘れない。
G正定
偏らない、こだわりなき落ち着き(禅定)、涅槃・解脱に安住する。